|
ある日、お客様から彼らの製品を海上輸送で東京まで届けて欲しいとの注文をいただきました。ところが、当社輸出課のパットは注文書をちゃんと読まず、誤って貨物を飛行機で運んでしまいました。飛行機は船よりも速いけれど運賃は10倍です。
すぐさま輸出課長、クリスのオフィスに駆け込み、恒例のクレームです。最初は私の勢いにすくんだ様子で、彼はすまなそうな顔をしていましたが、まもなく、私を正面から凝視して堂々と言いました。
“橋渡さん、今回は大変残念でしたね。これはヒューマンエラーです。どんな仕事でもヒューマンエラーを100%防止する保証はありません。ところで、当社は98%の仕事の精度を誇り、これは業界平均の96%に比べると2%も高い。(咳払いをしながら)ちなみに私たちは毎月2,200件ものファイルを処理しています。” クリスは続けます。 “さて、私はパットに顧客から入手した書類を十分に読むように指導しました。そして、今後は係長が彼の作業を二重にチェックします。お客様にはこれはヒューマンエラーだったと謝っておいて下さい”
私はクリスの隣人の名前はきっとMr.ヒューマンエラーなのだろうと思いました。日曜日の夕方、芝生に水をやっているヒューマンエラー氏に向かって“ハーイ”と無邪気に声をかけるクリスが目に浮かびました。
100%ミスを撲滅する事は不可能だとわかっていても、我々日本人はヒューマンエラーを理由にすることは詭弁を弄しているように感じてなりません。謝罪する時には、力なく尻尾を垂れ下げ、飼い主を見上げる犬の上目遣いがふさわしい。
“ヒューマンエラーに特効薬はありませんが、当社のヒューマンエラー防止策は注文書を注意深く読むことと、ダブルチェックです。” もし、そんな事を平然と言ったら日本のお客様は怒りの圧力が上昇して脳内の血管が破裂するでしょう。
ミスの原因を究明する時、我々は日本人は「なぜ」を5回繰り返して真の問題点を探り出して、そこからおもむろに解決策を練ります。“なぜAが起きたのか?”、“なぜならばBだったから”、“なぜBが起きたのか?”、“なぜならばCだったから”…… 延々と傷口に塩を塗りつけます。とうとう5回も「なぜ」を繰り返していくと最初の「なぜならば」とは全く無縁の原因にたどり着いたりします。
ミスを犯した彼はまるで犯人扱いです。“奥さんとの仲はうまくいっているのか?”、“前日、十分に睡眠をとったか?”など、もはや収拾がつかなくなってしまいます。
ところで、アメリカ人は数字を駆使した抗弁がお好きと見え、“仕事の精度が業界平均を2%も上回り、毎月2,200件ものファイルを処理している”などと数字をもって画竜点睛とする習性があります。しかし、我々はむやみに数字を用いた釈明の稚気さ加減にはウンザリとしてしまいます。
“海上運賃の金額で請求するから、お客様は得したね”とクリスはお腹を突き出して得意然として言い放ちました。私は冷たく“So what?”と言って席を立ちました。
教訓:ダブルチェックは対策に非ず。ダブルチェッカーもヒューマンだからです。
更新日(2012.02.20)
|